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福岡地方裁判所 昭和57年(ワ)148号 判決 1983年9月26日

原告

河野文彦

被告

中山巖

ほか一名

主文

被告らは、原告に対し、各自金二七六一万八六四七円、及び内金二五一一万八六四七円に対する昭和五四年一月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金三九八六万五〇五九円、及び内金三六二四万五〇五九円に対する昭和五四年一月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(事故の発生)

1 原告は、次の交通事故により受傷した。

(一) 日時 昭和五四年一月二七日午後三時五五分頃

(二) 場所 福岡県山門郡瀬高町大字松田一一の二、国鉄大根川バス停留所先路上

(三) 加害車両 大型貨物自動車(福岡一一や五五二四)

(四) 運転者 被告中山巖(以下「被告中山」という。)

(五) 被害者 原告(昭和四四年一一月三日生)

(六) 事故の態様 加害車両が、福岡県山門郡山川町から柳川市方面に向け、前記道路を進行中、折から前記停留所で国鉄バスを下車し、前記道路を横断中の原告に衝突した。

(七) 受傷の部位程度 原告は、そのため、頭蓋骨陥没骨折(開放性)、左上肢挫滅創、及び左上腕首及前腕骨粉砕骨折、右前腕挫創及び皮膚欠損、右第一、二、五指切断創の傷害を受けた。

(責任原因)

2(一) 被告中山は、加害車両を保有し、自己のために運行の用に供している。

(二) 被告瀬口舗道株式会社(以下「被告瀬口舗道」という。)は、昭和五三年四月頃から、被告中山に日給一万九〇〇〇円でもつぱらアスフアルト舗装用の合材の運送を依頼し、以後月三、四回の割合で、その都度安全管理者である配車係の指示、立会の下に右合材を積載させ各工事現場に運送させていたものであり、本件事故当時の加害車両の運行は、被告瀬口舗道の支配のもとに同被告のためになされたものである。

(損害)

3 原告が、本件事故により蒙つた損害は、次のとおりである。

(一) 治療関係費 金五八万六〇〇〇円

(1) 入院雑費 金九万九〇〇〇円

原告は、昭和五四年一月二七、二八日、福岡県三池郡高田町濃施のヨコクラ病院に、また、同年一月二八日から同年五月五日まで大牟田市立病院にそれぞれ入院(合計九九日)したが、右入院雑費は一日当り金一〇〇〇円が相当である。

(2) 付添看護料 金二九万七〇〇〇円

前記入院期間中、原告の母河野道子が看護に当つたが、その費用は一日当り金三〇〇〇円が相当である。

(3) 医師、看護婦に対する謝礼 金一九万円

原告は、ヨコクラ病院、及び大牟田市立病院の医師、看護婦に合計金一九万円相当の支払をした。

(二) 慰藉料 金一四七八万円

(1) 入通院分 金一七八万円

原告は、本件事故により、左上腕切断、右第一、二、五指切断の重傷を負い、その治療のため、入院九九日、通院二三箇月(ただし、昭和五四年五月六日から症状固定時の昭和五六年四月二日まで)の長期療養を必要とし、右入通院に対する慰藉料としては頭書の金額が相当である。

(2) 後遺症分 金一三〇〇万円

原告の後遺障害は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令二条別表の第四級と第六級とに該当するので、重い後遺障害の該当する等級の二級上位の等級(第二級)に該当することとなり、右慰藉料としては、頭書金額が相当である。

(三) 逸失利益 金三八六三万九〇五九円

原告は、本件事故により、前記のとおり後遺障害等級第二級の傷害を受け、労働能力喪失率は一〇〇パーセントであり、一八歳から六七歳までの四九年間稼働可能とし、基準となる給与を昭和五五年度賃金センサス(第一巻第一表産業計男子労働者新高卒計)の年額金三二九万九一〇〇円と、中間利息の控除をライプニツツ係数により行なうと、原告の逸失利益は頭書の金額となる。

(四) 損害の填補 金一七七〇万〇〇七三円

原告は、本件事故により、自賠責保険金金一七七〇万〇〇七三円(ただし、金一七七六万円を誤解があつたので訂正する。)を受領したので、前記損害額に充当すると、残額は金三六二四万五〇五九円となる。

(五) 弁護士費用 金三六二万円

原告は、本件訴訟の追行を原告代理人に委任し、弁護士報酬として金三六三万円を支払う旨約した。

よつて、原告は、被告らに対し、自賠法三条に基づき、各自金三九八六万五〇五九円、及び右金員から弁護士費用を除いた金三六二四万五〇五九円に対する本件事故の日である昭和五四年一月二七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告中山)

1 請求原因1のうち、(一)ないし(六)は認め、その余は不知。

2 同2(一)は認める。

3 同3(一)は不知、(二)、(三)は否認、(四)の自賠責保険から原告主張の支払を受けたこと、(五)のうち原告代理人に訴訟を委任したことは認め、その余は不知。なお、労働能力喪失率は七〇パーセントが相当である。

(被告瀬口舗道)

1 請求原因1の(一)ないし(六)は認め、その余は不知。

2 同2(二)のうち、被告瀬口舗道の配車係の指示によつて被告中山がアスフアルト舗装用の合材を積載し、これを各工事現場に運送させていたことは認め、その余は否認する。被告瀬口舗道は、中村産業こと訴外中村満雄に右合材の運送を請け負わせたものであつて、被告中山は右中村に雇われてその運送に従事していたにすぎない。

3 同3のうち(五)の訴訟委任の点のみ認め、その余は不知。

三  抗弁

(被告中山)

1 加害車両には、本件事故当時、構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたし、本件事故は、原告が停車中のバスの後部から突然飛び出したことによつて生じたもので、被告中山は、運転上の注意を怠らなかつたが右衝突を回避できなかつた。

2 仮にそうでなくても、原告にも右のような過失がある。

3 原告は、その主張分以外に被告中山の加入する自賠責保険から傷害分として金四〇万円の合計金一八一〇万〇〇七三円を受領している。また、被告中山は、原告の治療費金八五万九九二七円及び山川町に対し国民健康保険の保険者負担分として内金一五〇万円を支払つている。

(被告瀬口舗道)

原告にも、バスの後部を通つて道路を横断する際、左右の安全(特にバスのため死角となつている対向車の動静)を確認せずに、いきなり道路に飛び出した過失がある。

四  抗弁に対する認否

(被告中山関係)

1 抗弁1、3(ただし、傷害分として別に金四〇万円受領したことは認める。)は否認する。

(被告ら関係)

2 過失相殺(抗弁2、被告瀬口舗道)は否認する。原告は、中央線付近で一時停止して安全を確認しようとした途端に、加害車両に衝突されたもので、原告には過失はない。

第三証拠

訴訟記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1のうち、(一)ないし(六)は当事者間に争いがなく、同(七)は、成立に争いない甲第一〇号証によりこれを認める。

二  同2(一)は、当事者間に争いがない。

同2(二)のうち、被告瀬口舗道の配車係の指示によつて、被告中山がアスフアルト舗装用の合材を積載し、これを各工事現場に運送させていたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第四ないし第八、第一六、一七、第二〇、第二二、第二四号証、及び被告中山本人尋問の結果によれば、被告中山は、被告瀬口舗道の配車係江崎透の依頼を受けて、同社の自動車だけでは仕事が間に合わないときに一日金一万九〇〇〇円の約束で、月に三回程度合材の運送に当つていたことが認められ、被告中山の中村産業に雇われて被告瀬口舗道に働いていた旨の供述は、前掲各証拠に照し、にわかに採用できない。

右事実によれば、被告瀬口舗道は、自己の営業のためにその配車係の指示のもとに、同社の保有する自動車と同様に被告中山の加害車両を利用していたのであつて、被告瀬口舗道にも運行供用者としての責任があるというべきである。

三  同3について判断する。

1  同3(一)(治療関係費)については、成立に争いない甲第三〇ないし第三二号証の各一、原告法定代理人尋問の結果、及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和五四年一月二七、二八日、ヨコクラ病院に、同年一月二八日から同年五月五日まで大牟田市立病院にそれぞれ入院(合計九九日間)し、その期間中河野道子が医師の指示を受けて付添看護に当つたことが認められ、入院一日当りの雑費は金六〇〇円、付添看護費は金三〇〇〇円が相当であるから、右損害は合計金三五万六四〇〇円となる。

また、原告法定代理人尋問の結果によれば、医師、看護婦等への謝礼として金一九万円の出捐をしたことが認められるが、本来このような謝礼は自発的に好意からなすものであつて損害とはいえないが、前記一、三1の原告の受傷の部位、程度、入院期間からして原告に対する治療は大手術であつたと推認できるので、右謝礼のうち実質的には治療費の一部と同視できる医師への謝礼金一五万円のみ損害と認める。

2  同3(二)(慰藉料)について判断する。

入通院分については、原告が前記一のとおりの傷害を負い、前記三1のとおり九九日間入院した外、前掲甲第三一号証の一、成立に争いない第三三ないし第三六号証、原告法定代理人尋問の結果によれば、原告は大牟田市立病院に昭和五四年三月一七日から同年七月二一日まで(治療実日数二七日)、溝口外科整形外科病院に同年一一月八日から同年一二月二三日まで、及び同年一二月三一日から昭和五五年一月七日まで(治療実日数三日、ただし、昭和五四年一二月二四日から同月三〇日まで入院)などの通院治療をしたことが認められ、右入通院による苦痛を慰藉するには金一五〇万円が相当である。

後遺症については、前掲甲第三六号証によれば、原告には左上肢切断、右Ⅰ、Ⅱ、Ⅴ指切断(なお、残存するⅣ指はほとんど可動性なし)の後遺症があり、前掲甲第三五号証によれば脳挫創の方は、現在のところ自覚症状なく脳神経検査で特に異常を認めないことが認められる。原告の右後遺症は、自賠法施行令別表第四級の六、第七級の六、第一二級の九に各該当するから併合して第二級の後遺症にあたり、右を遺藉するには金一三〇〇万円相当である。

3  同3(三)(逸失利益)について判断する。

原告に前記三2のとおりの後遺症があることは明らかであつて、右による労働能力喪失率は一〇〇パーセントとするのが相当であり、特別な補助具や本人の努力による右状態の克服を要求して右喪失率を下げることは適当ではない。原告が一八歳から六七歳まで稼働するとして、口頭弁論終結時に直近の昭和五五年賃金センサス(全国・産業計・男子労働者・新高卒)の平均給与額(金三三三万一五〇〇円)を基準とし、中間利息の控除をライプニツツ係数(一一・七一一七)によつて行なうと、原告の逸失利益は、金三九〇一万七〇〇〇円(一〇〇〇円未満切り捨て)となる。

4  そうであれば、原告の損害の合計は金五四〇二万三四〇〇円となる。

三  被告らの過失相殺の抗弁(被告の中山の抗弁1(免責)を含む。)について判断する。

前掲甲第一七、第二二号証、成立に争いのない甲第九、第一二ないし第一四号証、本件現場の写真であることに争いない甲第二九号証、被告中山、及び原告法定代理人本人尋問の各結果によれば、本件現場付近は山川町から柳川市方面に向けて左にカーブしているアスフアルト舗装の平担な道路(幅員六・八メートル)で、左側に竹やぶ等があつて山川町方面から来る車両には前方に左側の見通しの悪い場所であること、被告中山は加害車両に積載トン数(七トン)を一・五トンオーバーする合材を積んで時速四八キロメートル(制限速度四〇キロメートル)で山川町方面から柳川市方面に向けて進行して来た際、約四〇メートル前方の大根川バス停留所に山川町方面に向うバスが停車しているのを認めたがそのまま減速することもなく進行し、前方一二・八メートルの地点でバスの後から小走りで道路を横断しようとして中央線付近まで進んできた原告を認め、急ブレーキをかけたが間に合わず本件事故をおこしたこと、及び原告は、バス停留所でバスを降りバスが発車してからその後を道路の反対側にあるドライブインに停めていた自転車をとるため小走りで中央線付近まで来た時右事故に遭つたことが認められ、右認定に反する証拠は採用しない。

右事実によれば、被告中山は、大型貨物車であつて、積載オーバーのため更に危険回避の措置が取りにくくなつている加害車両を、制限速度に違反して運転して本件現場にさしかかり、バス停留所に停車中のバスを認めたのであるから、当然降車した乗客のうち道路を横断する者があるであろうことは予測して、(しかも、バスは車体が大きく後方の乗客の動静が見にくいうえ特に本件現場は前方の見通しの悪い左カーブであつた。)減速し、前方を注視して進行しなければならないのに、そのままの速度で漫然と進行した過失があるから被告中山の免責の抗弁は認められない。

もつとも、原告にもバスの影で対向車が見にくいのであるから、バスの通過を待つて対向車の有無を確認するか、少くもバスの後方を中央線内側付近まで出て一旦対向車の有無を確認したうえで横断を継続すべきであつたのにそれを怠つた過失があるので、右過失を考慮して、原告の損害のうち治療費を除いた損害から二〇パーセントを控除した額を損害とするのが相当である。そうすると、原告の損害は金四三二一万八七二〇円となる。

四  請求原因3(四)(損害の填補)、抗弁3(弁済)について判断する。

被告中山との間では原告が自賠責保険から合計金一八一〇万〇〇七三円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、被告瀬口舗道との間では成立に争いない甲第四六ないし第四八号証によりこれを認める。なお、抗弁3のうち治療費については、原告が本訴において請求せず、過失相殺の対象ともしていないので、右金額は考慮しない。

そうであれば、原告の請求しうる損害賠償額は金二五一一万八六四七円となる。

五  請求原因3(五)(弁護士費用)のうち、原告代理人に本訴追行を委任したことは当事者間に争いがなく、本件事故による相当報酬額としては、事件の難易、認容額等を考慮して金二五〇万円が相当である。

六  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らに対し各自金二七六一万八六四七円及び弁護士費用を除いた金二五一一万八六四七円に対する本件事故の日である昭和五四年一月二七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訟訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 有吉一郎)

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